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東京地方裁判所 平成10年(ワ)28846号 判決 1999年9月30日

原告 日機通商株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 井上晴孝

被告 株式会社ゴルフ西洋

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 長谷則彦

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金八〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月一八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、ゴルフクラブの会員契約上の義務に違反した、若しくは右契約は要素に錯誤があって無効であると主張して、契約解除に基づく原状回復請求として、若しくは契約の無効を理由とする不当利得返還請求として、既払の預託金等の返還及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  原告は、平成五年三月三一日、株式会社西洋環境開発(以下「西洋環境開発」という。)との間で、同社が経営する左記のゴルフクラブをメンバーとして利用することなどを内容とする正会員契約を締結し、入会金八〇〇万円、預託金三二〇〇万円の会員権を二口分、合計八〇〇〇万円を支払った。

ゴルフ場名称 美浦ゴルフ倶楽部

場所 茨城県稲敷郡<以下省略>

内容 メンバーシップ制

一八ホール七〇一〇ヤード

すべての営業日にメンバー料金で利用できる。

すべての営業日にビジター三名までの同伴が可能。

土日祭日を除くすべての営業日には、一日につき一組の紹介が可能。

同年一〇月七日オープン

2  被告は、平成七年二月一日、西洋環境開発から、本件ゴルフクラブの所有権及び運営権を譲り受け、原告に係る右会員契約上の地位も被告が承継した。

二  本件の争点

本件の争点は、本件会員契約に関して、原告が後記主張に係る権利を有し、被告がこれに応ずるべき義務を負うか、ビジターの利用制限違背も含め、被告が本件会員契約上の義務に違反したか、また、そうした義務違反が契約解除事由となるか、原告が主張する契約の錯誤無効の是否である。

1  原告の主張

本件会員契約の締結に当たっては、本件ゴルフクラブにつき、高額な契約金に見合う厳選されたメンバーを主体とし、質の高い本格的名門コースとして、ゆとりあるクラブライフを実現するべく運営すること、また、会員は、いつでも予約を要せずにビジター同伴でゆったりとプレーができ、クラブハウスでもゆったりとくつろいで語り合えること、正会員は、平日一組に限りビジターの紹介ができ、土日祭日には、正会員の同伴なきビジターの入場はできないことが定められ、会員のクラブライフを最優先するゴルフクラブであることが約束されていた。したがって、原告は、本件会員契約上の権利として、若しくはこれに付随した権利として、ゆったりとしたプレーができる権利及びくつろぎと語らいのあるクラブライフを享受する権利を有するというべきである。そして、被告は、本件ゴルフクラブをそのように運営すべき義務を負うに至ったのである。

しかし、被告は、このような義務に違反し、土日祭日を含むすべての営業日に無制限にビジターの入場を勧誘容認し、その結果、ゆとりあるプレーなど望むべくもなく、原告がプレーの予約を申し込んでも断られることがあり、しかも、パーティルームが足りなくなってクラブハウスのレストラン内に間仕切りを置き、レストランの一部をコンペルームとして使用するなどしたため、落ち着いたクラブライフなどとても望めない状況になっている。

被告の右行為は本件会員契約上の義務に違反し、原告ら会員の要求にも拘わらず、被告が右義務を履行しようとしないので、原告は、被告の債務不履行を理由に本件会員契約を解除し、前記入会金及び預託金を返還することを求める。

仮に原告が本件会員契約に関して右の権利を有しないとしても、被告が配布した募集文書やビデオ等、更には高額な契約金とも相まって、原告は、右の権利を有し、本件ゴルフクラブにおいて、ゆったりとしたプレーができ、くつろぎと語らいのあるクラブライフを享受することができる旨誤信したものである。したがって、本件会員契約は、要素に錯誤があって無効である。

2  被告の主張

原告の右主張は争う。原告は、本件会員契約に関して、その主張するような権利を有するものではなく、被告も、これに応ずるべき義務を負うものではない。また、本件会員契約の内容は明確であって、原告に錯誤はない。

なお、原告の本件会員契約に基づく基本的な権利は、前記一項の1記載の内容でプレーする権利であるが、被告が会員の右プレー権を尊重しなければならないことは当然であるとしても、会員数が募集予定である一二〇〇名の二割程度でしかない現段階においては、ビジターの利用を制限しなければ会員のプレー権に支障を及ぼすとは考えられず、被告が原告の主張するようにビジターの利用を制限する義務を負うことはないものである。また、ビジターを積極的に受け入れて経営の健全化を図ることは、被告にとって必要であるばかりか、会員の利益にも適うのである。

第三争点に対する判断

一  <証拠省略>によれば、次の事実を認めることができる。

1  本件ゴルフ場は、コース設計者として著名なC氏が設計に当たり、自然の中のすばらしい景観美を備えた戦略的なコースを標榜し、リスクと報酬を設計思想として、すべてのホールで一打一打にショットの選択を迫られるという技術的に高いレベルが指向されていた。こうした設計指向は、西洋環境開発等が原告に対して本件ゴルフクラブへの入会を勧誘した際に交付したパンフレットやプロモーションビデオにも謳われているほか、右パンフレット等には、本件ゴルフクラブが伝統と風俗を感じさせるものであることが強調され、これまで体験したことのないプレーの深い充実観、これまで味わったことのないクラブハウスでのゆとりと安らぎ、友人とのゆっくりとした語り合いの時間、限られた少数のメンバーとゲストに対する細やかな心安らぐサービスが得られると記載されている。また、西洋環境開発や被告の属するセゾングループのD名義で送付された「ご挨拶」と題する書面にも、本件ゴルフ場につき、気の合う友達同志が自由にゴルフや語らいを楽しめること、一般には公募せず、付き合いのある関係者に対してだけの勧誘であることが記載されている。

2  本件会員契約の締結に当たり、原告が西洋環境開発の担当者から交付を受けた「ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律第五条第一項に基づく書面」と題する書面、更には「会員システムに関するご説明」と題する書面には、本件ゴルフクラブによって提供される役務の内容として、個人正会員及び法人正会員(記名者一名)については、前記の契約内容であること、また、個人特別正会員及び法人特別正会員については、会員本人の利用に関して右と同様の内容であるほか、登録者二名を土日祭日を除くすべての営業日にメンバー料金で利用させることができ、かつ登録者二名を土日祭日を除くすべての営業日にビジター三名までの同伴をさせることができると記載されている。したがって、本件会員契約において西洋環境開発、それを継承した被告が約したビジターの利用規制形態は、土日祭日の営業日においては一組(プレイヤー四人まで)に最低一名の会員(法人会員については記名者)の同伴が必要であり、これを除く営業日においては一組に最低一名の会員若しくは登録者が同伴するか、又は一日につき一組のビジターが会員の紹介により会員等の同伴なくして利用できるというものとなる。

3  本件ゴルフクラブの最終募集口数は八〇〇口、会員数は一二〇〇名を予定していたが、会員数等は一向に伸びず、平成一一年一月末現在でも二三六口二六〇名であり、予定数の二割程度に過ぎない。こうしたことから、本件ゴルフ場の経営は赤字続きであり、後記のとおり被告が積極的にビジターを勧誘したこともあって、営業収入につき、平成七年度は約八億円であったのが平成八年度は一〇億円を超えたが、その後伸び悩み、平成一〇年度は約八億六〇〇〇万円となっている。一方で、経常損失は、一時期年額二億円近くもあったのが四〇〇〇万円に減じたものの、再び増加に転じ、平成一〇年度は約一億七〇〇〇万円となり、平成一一年一月末現在の累積赤字は約六億六〇〇〇万円に達している。

4  被告は、本件ゴルフ場の経営の健全化を図るため、その経営を引き継いだころからビジターを積極的に勧誘して増収を図り、主として平日を中心に様々なイベントを計画し、原則としてメンバーとは相当の料金の格差を設けたとはいえ、前記会員契約上のビジターの利用規制に拘わりなく、ビジターの受入れを行った。そして、これらのイベント情報が書かれたチラシを、会員宛に送ったり、本件ゴルフ場内や系列の西武デパートに置いたりしたほか、セゾングループの関係各社の役員や社員に利用を働きかけるなどした。その結果、ここ二、三年の年間来場者数は三万七〇〇〇人から三万九〇〇〇人近くに上り、本件ゴルフ場近辺における同等の規模を有する他のゴルフ場と比較してもそれほど遜色はないが、その中に占めるメンバー比率は二パーセントから五パーセント程度、会員一名当たりの年間利用回数は平成一〇年度において平均三・五回に過ぎない。したがって、収益の大部分をビジター収入に頼っている現状からすると、仮に会員契約のとおりにビジターの利用制限を行えば、経常損失や累積赤字が格段に拡大し、引いては被告にとって倒産の危殆に瀕することが懸念される。

5  本件ゴルフ場が開場したころは、利用者も少なかったことから、ゴルフのプレーをゆっくりと楽しむことができ、また、クラブライフ内のレストランは静かで、ゲストとの語らいの場にふさわしく、原告代表者にとって十分に満足のいくものであった。しかし、被告がビジターを積極的に受け入れてから、プレイヤーが増えて時としてプレーに時間がかかるようになり、原告代表者においては、進行が遅いことに不満を持って途中で帰った時も含めて、ハーフプレーの時間が三時間に及ぶことが過去二回だけあった。また、被告は、原告ら会員に説明なく、コースの一部ブッシュを刈り込んだり、看板ホールとして難易度の高かった四番ホールをやさしく手直ししたりしたほか、コンペが混んでいるときに、クラブハウス内のレストランに間仕切りを置いて、レストランの一部をパーティルームとして使用し、その拍手や歓声で雑然とした雰囲気が伝わることもあった。原告代表者は、被告のこうした行為につき、質の高いゴルフ場にとってふさわしくない運営方法であり、ゆとりあるクラブライフなど到底望めなくなったとして、大いに不満を持つに至った。

ところで、原告は、主に代表者夫婦のペアによる利用で年に三〇回以上も来場しているが、右のとおり過去に二回だけハーフプレーの時間が三時間に及ぶことがあったものの、概ね二時間前後に収まっており、二時間半を越えることは年に数回しかなく、また、特に予約を断わられて来場に支障が出たことはない。次いで、右のコースの手直しにつき、いずれも設計者の了解を得て行なったものであり、ブッシュの刈り込みは、ロストボールを防いでプレーの進行を早めるという目的もあるが、元々未整備な状態で残されていた箇所を刈り込んだものであって、害虫駆除やマムシによる危険防止の見地からも必要な措置であり、また、四番ホールの手直しは、そのグリーン左側の崖下が隣地の耕作地や通学路になっていて、危険防止策を講ずる必要性があり、かつプレイヤーからOBの判定が困難であるとの指摘を受けて、必要最小限度の造成を施したものである。次いで、レストランの間仕切り使用につき、クラブハウスにはパーティルームが四部屋あり、ほぼこれで需要を賄えるものの、ゴルフのトップシーズンに当たる数か月の間、パーティルームが足りなくなって、月に四、五回程度、レストラン(パーティルーム四部屋を合わせたより広い。)に間仕切りを置き、ことにそのうち一、二回程度は両方の隅に間仕切りを置いて、臨時のパーティルームとして使用しているだけである。

6  原告ら数名の会員は、平成七年一〇月ころ、本件ゴルフクラブの総支配人に対し、プレーの進路停滞について善処するよう申し入れたところ、総支配人は、一日の組数を四〇組以内にする旨回答した。その後の利用者の受入れ状況は、平成九年度において土曜日が平均三七組、日曜祝日が平均三九組で、利用者の多い土日祭日でも平均では四〇組を下回っているが、年に数回ほど四〇組を越えることもある。他のゴルフクラブでは一日に五〇組以上、二〇〇人以上の利用者を受け入れることがあり、一方で、被告も、最大で一日に五〇組近い利用者を受け入れることがあるが、原則として土日祭日においても一日に四五組程度、一八〇人の利用者に限定している。更に、被告は、それぞれの時間帯に会員専用の枠を予め設けていたが、会員からの要望もあってこれを拡大し、会員枠を一日につき六つから七つ程用意して、その枠ではビジターの予約を受け付けずに空けておくなど、会員の利用に配慮した運営を行ないつつ、他方で前記のとおり、経営の健全化を図るため、所定の会員数に達するまでの暫定的な措置としてビジターの積極的な受入れを行なっているのである。

7  原告ら数名の会員は、被告のこうした措置にも納得せず、平成一〇年になって、被告に対し、前記会員契約のとおりにビジターの利用制限を行なうよう求めて、東京簡易裁判所に調停を申し立てたが、不調に終わった。その後、更に原告らは、被告に対し、土日祭日のプレイヤーの組数を一日につき四〇組以内にするよう申し入れている。

二  原告は、本件会員契約上の権利若しくはこれに付随した権利として、ゆったりとしたプレーができる権利及びくつろぎと語らいのあるクラブライフを享受する権利を有する旨主張する。確かに右認定に鑑みれば、前記のようなビジターの利用規制が本件会員契約の内容になっていたことは明らかであるし、ことに会員の勧誘方法を見るに、被告(経営承継前の西洋環境開発)は、本件ゴルフクラブについて殊更に伝統と風格を強調し、一打一打にショットの選択を迫られるという戦略的なコース、一般公募によらない厳選されたメンバーとゲストに対するきめ細かなサービスを標榜していたのであって、本件ゴルフクラブは、高額な契約金とも相俟って、本格的な質の高い名門コースとなることを旨とし、しかも、技術的にハイレベルなコースと高級感あるクラブライフの提供を会員獲得の謳い文句にしていたことは明らかである。これらのことを合わせ考慮すれば、本件ゴルフ場の会員契約を締結した原告ら会員につき、ゆったりとしたプレーができる権利及びくつろぎと語らいのあるクラブライフを享受する権利を有するとの原告の主張も、あながち理解できない訳ではない。

しかし、「ゆったりとした」プレー、「くつろぎと語らいのある」クラブライフ、若しくは「ゆとりある」クラブライフといっても、どの程度のプレー時間や混み具合の状況、あるいは静かさやサービスが提供されれば、ゆとりあるなどといえるのか誠に不明確であって、各人の主観や感性によって相異なるものである。したがって、このような一義的に不明確な権利義務関係を観念し、法的に契約の有効性や拘束力を論ずるのは不適当であると考えられるし、ことに本件が多数の会員とゴルフ場の経営会社との間で締結される会員契約が問題となっていて、そこでは多数の会員と経営会社との間にほぼ同一内容の権利義務関係が発生し、集団的な規律が要請されることからすれば、各人の主観によって内容の異なる権利を想定し、これに基づいて契約関係が左右されると解するのは、尚のこと不適当であるというべきである。結局、会員契約の有効性や義務違背を論ずるに当たっては、原告が指摘しているように、ビジターの利用規制義務違反の存否、あるいはレストランの用法義務違反の存否といった具体的な行為義務違反を問題にするべきであって、「ゆったりとした」プレー、「くつろぎと語らいのある」クラブライフ、「ゆとりある」クラブライフの享受というのは、契約全体に流れる精神と捉えるにしても、右のような具体的な行為義務違反の存否を判断するに当たっての解釈指針としての意味合いを持つに過ぎない。

三  被告が本件会員契約において定められたビジターの利用規則義務に違反していることは、前記のとおりである。ところで、ゴルフクラブの会員契約は、長期間の契約関係の存続を予定し、ゴルフ場等関連施設の継続的な役務提供を内容とする継続的契約であるから、契約上の義務違反が直ちに契約解除の事由を構成すると解するのは相当でなく、その義務違反行為が契約関係の継続性を困難にするほど強い背信性を有するものであるか否か、義務違反行為をなしたことに相当な理由があって、継続的な契約関係にある当事者間の信頼を損なう程度に未だ達していないかを検討して、契約解除の是否を決するべきである。(被告が、会員数の少ないこと、会員のプレー権を尊重した措置を講じていること、経営の健全化を図る必要性があることなどを理由に挙げて、本件会員契約上の義務違反がないと主張している趣旨として、右のような背信性の有無を問題にし、これがないと主張しているものと解せられる。)。

そこで、被告の右義務違反行為について背信性の有無を検討するに、本件ゴルフ場の経営は赤字続きであって、しかも、累積赤字も莫大であり、収益の大部分をビジター収入に頼っている現状からすれば、契約で定められたとおりにビジターの利用規制を行なった場合、本件ゴルフ場の経営が立ち行かなくなることは見易いところであり、会員が予定募集数近くに達するまでの暫定的な措置として、右規制に依らないビジターの受入れを行うこともやむを得ないと考えられること、被告の行なっているビジターの勧誘は、チラシを会員に送ったり本件ゴルフ場内や系列企業の経営するデパートに置いたり、系列企業の役員らに利用を呼びかけているに過ぎず、限られた範囲でビジターを募っているに過ぎないといえること、ビジターの受入れは決して無制限になされている訳ではなく、原則として土日祭日でも一日四五組程度、一八〇人の利用者に限定しており、この限度を越えることがあっても稀であって、因みに土日祭日の平均プレー組数は一日三九組以内で、原告を含む有志会員の要求組数である四〇組以内を一応下回っていること、加えて、被告は、一日につき特別に六つから七つの会員枠を設定しており(会員一名当たりの年間利用回数が平均三・五回に過ぎないことからすれば、会員のために十分な枠が用意されているといえる。)、その枠ではビジターの予約を受け付けずに空けておくなど、会員のプレー権に配慮した措置を講じていること、以上を考え合わせると、被告は、契約に定められたビジター利用規制義務に違反した行為をしているが、その義務違反はやむを得ない事情からなされたのであって、ビジターの受入れに一定の限度を設けていることや、他方で会員の利用を損なうことのないよう配慮していることに照らせば、被告に契約関係の継続を困難にするほどの背信性はないというべきであって、継続的契約関係における当事者間の信頼を損なう程度に達していないというべきである。

ところで、原告においては、被告がビジターを積極的に受け入れてから、時としてプレーに時間がかかるようになり、そのことに大いに不満を持っていることが伺える。しかし、原告は、主に代表者夫婦による利用で年に三〇回以上来場しているが、特に予約を断わられて来場に支障が出た事実はなく、ハーフプレーの時間は概ね二時間前後に収まっていて、二時間半を越えることは年に数回しかなく、三時間に及んだことは過去数年の間に二回だけであったというのであるから、原告との関係でも継続的契約関係における信頼を損なっていないというべきであって、これをもってゆったりとしたプレーをする権利が侵害されたというのは針小棒大の感を免れない。

以上の次第であるから、被告のビジター利用規制義務違反を理由に、本件会員契約を解除することはできないものである。

四  次いで、原告は、被告がクラブハウスのレストラン内に間仕切りを置いて、レストランの一部をコンペルームとして使用していることを非難する。しかし、本件会員契約において、レストランの使用方法が特に定められている訳ではなく、前説示のとおり、「くつろぎと語らいのある」クラブライフ、若しくは「ゆとりある」クラブライフを享受する権利というのが法的な行為規範にならないことを考慮すれば、被告がレストランを右のように使用したからといって、直ちに契約違反(債務不履行)があったと考えることはできない。

そもそも前記認定のとおり、被告は、始終レストランに間仕切りを設けている訳ではなく、来場者の多いトップシーズンの数か月間、四部屋あるパーティルームが一時的に足らなくなって、月に四、五回程度だけ間仕切りを置いて、臨時のパーティルームとして使用しているに過ぎないというのであるから、その際に多少の騒音がして雑然とした雰囲気になるとしても、それをもって落ち着いたクラブライフを送ることができないなどというのは、針小棒大である。

また、コースの一部手直し等も、前記認定のとおり、正当な理由に基づいて行なわれたのであって、特に問題とするに当たらない。

五  次いで、原告は、本件ゴルフクラブに入会することによって、ゆったりとしたプレーができ、くつろぎと語らいのあるクラブライフを享受することができる旨誤信したから、本件会員契約は要素に錯誤があって無効であると主張する。

しかし、前説示のとおり、「ゆったりとした」プレーができる権利、若しくは「くつろぎと語らいのある」クラブライフを享受する権利というのが法的な行為規範にならないことを考慮すれば、仮にこの点について原告に誤信があったとしても、契約の要素に錯誤があったということにはならない。また、前認定のとおり、原告は、本件ゴルフ場が開場した当初は、ゴルフのプレー状況やクラブライフに十分満足していたのであり、その後被告がビジターを積極的に受け入れたことなどに不満を持って、被告の責任を追及するようになったのであるから、原告が主張していることは、契約自体に錯誤があるというものではなく、契約締結後に被告が契約違反行為をしたというものであって、これは契約の錯誤無効を来たす事由にはならないから、原告の右主張は失当である。

六  よって、原告の本件請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 内藤正之)

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